カフェ、ネイルサロン、教室、修理業。個人で店や事業を始めるとき、開業の手続きは「税務」「自分の社会保険」「雇用まわり」「お客さまとの接点」の4つに分けると迷いにくくなります。全部を開業日までに終わらせる必要はありません。期限のあるものから順番に片づけていきましょう。
開業手続きの全体像:期限があるものを先に
まず、期限が定められている代表的な手続きを一覧にします。
| 手続き | 提出先 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 納税地の税務署 | 事業開始から1か月以内 |
| 青色申告承認申請書 | 納税地の税務署 | 原則、承認を受けようとする年の3月15日まで(1月16日以後の開業はその日から2か月以内) |
| 国民健康保険・国民年金への切り替え(会社員を辞めた場合) | 市区町村・年金事務所 | 退職後14日以内が目安 |
| 労働保険の保険関係成立届(人を雇ったら) | 労働基準監督署 | 保険関係成立の日から10日以内 |
期限や様式の詳細は、記事末尾の国税庁・厚生労働省の案内ページで確認できます。業種によっては、これらとは別に保健所の営業許可(飲食など)や警察署への届け出(古物商など)が開業前に必要です。営業許可系は「出さないと開業できない」ものなので、該当する業種の方は先に確認してください。
従業員を雇わないうちは:労務の手続きはまだ発生しない
一人で開業する場合、事業主としての労務手続き(労働保険・雇用保険など)はまだ発生しません。就業規則も、常時10人以上を雇うまでは作成義務がありません。開業時点で労務のために役所へ行く必要は、基本的にはありません。
必要なのは自分自身の社会保険の整理です。会社員を辞めて開業した場合は、健康保険を国民健康保険(または前職の任意継続)へ、年金を国民年金へ切り替えます。配偶者の扶養に入っていた方が開業する場合は、収入によって扶養の扱いが変わることがあるため、加入している健康保険組合の基準を確認しておくと安心です。
また、飲食や建設のように体を使う業種では、労災保険の特別加入(一人親方等・中小事業主等)という制度で、仕事中のけがに備える選択肢があります。国の労災保険は本来従業員のための制度ですが、特別加入を使うと事業主自身もカバーの対象にできます。
初めて人を雇うときに発生する手続き
アルバイト1人でも、雇った瞬間に事業主としての義務が一気に増えます。時系列で並べると次のようになります。
- 雇入れ時:賃金・労働時間・休日などの労働条件を書面等で明示する(労働条件通知書)。口約束だけで働き始めてもらうと、後のトラブルで守ってくれる記録がない状態になります
- 雇入れ後10日以内:労働保険の保険関係成立届を労働基準監督署へ提出する
- 雇用保険:週の所定労働時間20時間以上などの要件を満たす従業員がいる場合、ハローワークで手続きする
- 社会保険(健康保険・厚生年金):個人事業の場合は業種と人数によって強制適用かどうかが変わるため、自分の事業所が該当するかを最初に確認する
提出先が税務署・労働基準監督署・ハローワーク・年金事務所と分かれているため、初回は移動だけで時間が溶けます。雇入れ日から逆算して、どの書類をどこへ出すかの段取りを先に作っておくと、店を止めずに雇用を始められます。
開業と同時に整える「お客さま窓口」の最小セット
役所まわりと並行して、開業日までに用意しておきたいのがお客さまとの接点です。立派なホームページは要りません。最小セットは次の2点です。
- 店の名前・場所・営業時間・メニューや料金・問い合わせ先が1ページにまとまっていること
- そのページへ、Instagramのプロフィールやチラシ・ショップカードのQRコードから飛べること
これだけで「調べたけれど情報が出てこないので行くのをやめた」という開業直後の取りこぼしを減らせます。制作会社に頼むと数十万円かかりますが、今は無料で作れる選択肢があります。たとえばKotri(コトリ)は、個人店向けに1ページのお店ページを無料で作成できるサービスで、問い合わせの受信箱まで付いています。ネイルサロンのような予約型の業種であれば、ネイル・自宅サロン向けの作り方の解説も公開されています。以前ペライチの無料プランでページを公開していて移行先を探している方は、無料で使える移行先の比較が参考になります。
窓口ページを作ったら、Googleビジネスプロフィールへの登録と、Instagramプロフィールへの掲載までをセットで済ませてください。ページは作って終わりではなく、貼られて初めて窓口として機能します。
よくある質問
個人事業の開業届はいつまでに出せばよいですか?
個人事業の開業・廃業等届出書は、事業の開始等の事実があった日から1か月以内に納税地の税務署へ提出するとされています(国税庁の案内による)。提出が遅れた場合の罰則は定められていませんが、青色申告承認申請など期限のある手続きと一緒に早めに済ませるのが実務的です。
一人で開業する場合、労務関係の手続きは必要ですか?
従業員を雇わないうちは、労働保険や雇用保険などの事業主としての手続きは基本的に発生しません。自分自身の健康保険・年金は、会社員を辞めて開業した場合、国民健康保険と国民年金への切り替えが必要になります。業種によっては労災保険の特別加入という選択肢もあります。
初めてアルバイトを雇うとき、何の手続きが必要ですか?
従業員を1人でも雇ったら、労働保険(労災保険・雇用保険)の成立手続きが必要になります。労災保険の保険関係成立届は、保険関係が成立した日から10日以内に提出するとされています。また、賃金・労働時間などの労働条件を書面等で明示する義務(労働条件通知書)があります。社会保険は個人事業の場合、業種と人数によって適用が変わります。
開業時にホームページは必要ですか?
法律上の義務はありませんが、店名で検索したときに場所・営業時間・問い合わせ先が出てくる状態は、開業直後の集客の取りこぼしを減らします。無料で1ページのお店ページを作れるサービスを使えば、開業準備の合間に窓口を用意できます。
- 国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm - 国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm - 厚生労働省「労働保険の適用・徴収」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/hoken/index.html
本文中の提出期限の記述は、上記の国税庁・厚生労働省の案内ページにもとづいています。手続きの要否は事業の形態・業種・規模によって変わるため、個別の判断は所轄の窓口でご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供のための解説です。個別の手続きの要否や書類の作成は、所轄の行政窓口または有資格の専門家にご確認ください。社会保険労務士による個別相談・書類作成代行ではありません。