📄 解説ガイド

未払い残業代の請求方法
時効・証拠・手順を整理

残業代を「計算する」の次は「受け取る」です。時効・必要な証拠・会社への請求の流れ・相談先まで、何から動けばいいかをやさしくまとめました。

残業代を計算してみて「思ったより多い」と感じても、計算しただけでは支払いにつながりません。受け取るには、時効を意識しながら証拠をそろえ、順を追って請求していく流れがあります。このページでは、その手順を一つずつ整理します。

残業代の割増率(早見表)

残業代は、1時間あたりの基礎賃金に、労働の種類ごとの割増率をかけて計算します。労働基準法で定められた最低限の割増率は次のとおりです。就業規則でこれより高い率を定めている会社もあります。

労働基準法で定める割増賃金率(最低基準)
労働の種類割増率賃金の倍率
法定時間外労働(月60時間以内)25%以上×1.25
法定時間外労働(月60時間を超える部分)50%以上×1.50
深夜労働(22時〜翌5時)25%以上を上乗せ+0.25
法定休日労働35%以上×1.35
時間外労働+深夜労働50%以上×1.50
月60時間超+深夜労働75%以上×1.75
法定休日労働+深夜労働60%以上×1.60

月60時間を超える時間外労働の50%以上への引き上げは、2023年4月から中小企業にも適用されています。法定休日は割増計算のうえで時間外労働の時間数には含めません。金額の目安は残業代計算機で確認できます。

計算例でわかる:ケース別の残業代

「自分の場合はいくらになるのか」がイメージしやすいように、つまずきやすい4つのケースで計算してみます。時間単価は「基本給 ÷ 月の所定労働時間」で求め、以下はいずれも所定160時間で計算しています。同じ数字を残業代計算機に入れても同じ結果になります。

ケース1:固定残業代(みなし残業)を超えた分

固定残業代は、あらかじめ一定時間分の残業代を毎月支払う仕組みです。実際の残業がその時間を超えたら、超えた分を別途もらえます。基本給240,000円(所定160時間、時間単価1,500円)で、20時間分の固定残業代が支払われている人が、ある月に32時間残業したケースです。

固定残業の20時間を超えた分は12時間です。
1,500円 × 1.25 × 12時間 = 22,500円が、固定残業代とは別に請求できる目安になります。給与明細に「固定残業◯時間分」と書かれていたら、その時間を超えた分がないかを確認します。

ケース2:管理職(管理監督者)でも深夜割増は出る

「管理職だから残業代は一切出ない」は誤解につながりやすい点です。まず、労働基準法上の管理監督者に本当に該当するかは、役職名ではなく職務内容・権限・待遇の実態で判断されます。そして、仮に管理監督者に該当する場合でも、深夜(22時〜翌5時)の割増だけは支払う必要があります。基本給400,000円(所定160時間、時間単価2,500円)の管理職が、月30時間の深夜労働をしたケースです。

深夜割増は時間単価の0.25倍を上乗せします。
2,500円 × 0.25 × 30時間 = 18,750円。管理監督者に該当しても、この深夜割増分は受け取れます。

ケース3:残業が深夜に重なったとき

法定時間外労働(×1.25)が深夜帯に食い込むと、深夜割増(+0.25)が重なって合計×1.50になります。基本給240,000円(時間単価1,500円)の人が、深夜にかかる残業を10時間したケースです。

法定外の割増と深夜割増を合算します。
1,500円 × 1.25 × 10時間(=18,750円)+ 1,500円 × 0.25 × 10時間(=3,750円)= 22,500円。倍率でいうと×1.50です。計算機では「法定外残業」と「深夜割増」の両方に同じ時間を入れると再現できます。

ケース4:月60時間を超えた分

時間外労働が月60時間を超えると、超えた部分の割増率が50%以上に上がります(中小企業も2023年4月から対象)。基本給240,000円(時間単価1,500円)で、月70時間残業したケースです。

60時間までと、60時間を超えた10時間で率が変わります。
1,500円 × 1.25 × 60時間(=112,500円)+ 1,500円 × 1.50 × 10時間(=22,500円)= 135,000円。60時間を境に単価が上がるため、長時間残業が続く月ほど差が大きくなります。

まず押さえる「時効」のしくみ

未払い残業代の請求でいちばん大切なのが時効です。賃金請求権の消滅時効は、2020年4月施行の労働基準法改正で「当分の間3年」とされています(本来の規定は5年)。時効は給与の支払日ごとに進むため、いま動けば過去3年分まで請求できる可能性があります。

注意したいのは、古い月の分から順番に時効が来る点です。1か月放置するごとに、いちばん古い1か月分が請求できなくなっていくイメージです。「いつか整理しよう」と先延ばしにするほど、請求できる範囲は静かに狭まります。気づいた時点で証拠の確保から始めるのが現実的です。

時効は「気づいたとき」ではなく「給与の支払日」から進みます。請求できる金額が日々目減りしていくため、まず手元の記録を残すことが最初の一歩になります。

残業の証拠になるもの

請求の土台になるのは「いつ・どれだけ働いたか」を示す記録です。会社が労働時間を正しく管理していれば客観的な記録が残っていますが、そうでない場合は自分で集める必要があります。主な証拠は次のとおりです。

強さ証拠の例
客観的記録タイムカード・勤怠システムの打刻・入退館のICカード記録・業務用PCのログイン/ログオフ履歴
業務の記録業務日報・シフト表・メールやチャットの送受信時刻・残業申請の控え
自分でつける記録手帳・スマホのメモ・出退勤を記録したアプリ(毎日つけたものは補強材料になります)
金額の記録給与明細・雇用契約書・就業規則(基礎賃金や所定労働時間の確認に使います)

ポイントは、日付と時刻が分かる形で、できるだけ継続して残すことです。一日だけの記録より、毎日コツコツ残した記録のほうが実態を示しやすくなります。会社にある記録は退職前に確認しておくと、後から取りにくくなる事態を避けられます。

請求までの流れ

証拠がそろってきたら、おおまかに次の順で進みます。いきなり最終手段に進む必要はなく、話し合いで解決することも少なくありません。

STEP 1
未払い額を計算する

給与明細と労働時間の記録から、割増率ごとに未払い額の目安を出します。当サイトの残業代計算機で概算を確認できます。

STEP 2
証拠を整理する

上の表を参考に、時刻が分かる記録を月ごとにまとめます。コピーやスクリーンショットで控えを残しておきます。

STEP 3
会社に請求する

まずは会社へ未払い分の支払いを求めます。口頭だけでなく、内容と日付が残る形(書面など)で伝えると経緯が明確になります。

STEP 4
解決しなければ外部に相談する

支払われない場合は、労働基準監督署への相談・申告、労働局のあっせん、労働審判、訴訟といった方法があります。

会社に言いづらいときの相談先

「会社に直接言うのは気が重い」という場合でも、相談できる窓口があります。労働基準監督署は、労働基準法違反に関する相談・申告を受け付けています。各都道府県の労働局には、個別労働紛争のあっせん制度があり、第三者が間に入って話し合いを進める仕組みです。

どの方法が向いているかは、未払い額・証拠の量・会社との関係によって変わります。まずは状況を整理し、相談窓口に事実を伝えるところから始めると、次の一手が見えやすくなります。

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よくある質問

会社を辞めた後でも残業代は請求できますか?

退職後でも、時効にかかっていない範囲なら請求できます。在職中・退職後を問わず権利そのものは消えません。ただし退職時に「今後一切請求しない」といった書面に署名している場合は扱いが変わることがあるため、状況に応じた確認が必要です。

固定残業代があると請求できないのですか?

固定残業代は、一定時間分の残業代をあらかじめ支払う仕組みです。実際の残業がその時間を超えていれば、超えた分を別途請求できる可能性があります。給与明細に「何時間分」と書かれているかを確認すると、超過分の有無が見えやすくなります。

証拠がタイムカードしかなくても大丈夫ですか?

タイムカードは有力な客観的記録です。これに加えてメールの送信時刻やPCのログなど別の記録があると、実態をより示しやすくなります。手元の記録が限られていても、まずは整理して相談してみるところから始められます。

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根拠となる法令
残業(時間外・深夜・休日労働)の割増賃金は、労働基準法第37条に定められています。月60時間を超える時間外労働の割増率引き上げも同条にもとづくものです。条文はe-Gov法令検索で確認できます。
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※本ページは一般的な情報提供を目的とした解説です。個別の事情に応じた判断は、勤務先・専門家・労働基準監督署などの行政窓口にご確認ください。当サイトは社会保険労務士による個別相談や書類作成の代行を行うものではありません。