最終確認日:2026年8月12日(カスハラ対策義務化の全体像で確認済みの一次情報にもとづく)
カスハラ対策と聞くとマニュアルや研修から着手したくなりますが、その前に「自社ではどの類型が、どのチャネルで、どのくらい起きているか」を知らないと、的外れな対策に時間を使うことになります。ここでは、従業員5〜100名規模の会社が匿名アンケートで実態を把握する手順を、そのまま使える設問例12問と案内文例つきで示します。
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厚生労働省指針が求める措置は10個で、就業規則の条文で足りるのは一部です。自社に足りない措置を確認する(無料・登録不要)。
カスハラ対策の義務化(2026年10月1日施行)まで あと少しです。
なぜ実態把握を最初にやるのか
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策はすべての企業の義務になります。義務化の全体像で整理したとおり、厚生労働省の指針は企業が講ずべき10の措置を定めていますが、その中に「実態調査を行うこと」という項目はありません。それでも実態把握を最初に置くのには、実務上の理由が2つあります。
- 対策の優先順位はデータでしか決められないから。10の措置のうち、対処の内容の定めと周知(措置②)、悪質な事案への対処方針(措置⑧)、再発防止(措置⑦)は、自社で実際に起きている類型が分からないと中身を書けません。電話での長時間クレームが多い会社と、店頭での暴言が多い会社では、書くべき手順がまったく違います。
- 厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでも、取組の出発点に実態把握が置かれているから。方針づくりの前に従業員アンケートなどで現状を把握する流れが示されており、この記事の手順もその整理に沿っています。
言い換えると、実態調査は義務の項目そのものではなく、10の措置を自社に合った順番と中身で講じるための前提です。マニュアルや研修を先に作ってしまい、後から「うちで多いのは電話なのに対面の手順ばかり書いてあった」と作り直すのが、いちばん時間のかかる失敗パターンです。
そのまま使えるアンケート項目・設問例12問
次の12問は、頻度・類型・発生チャネル・報告の実態・欲しい支援という5つの構造で組んでいます。選択式を中心にし、自由記述は最後の1問だけにしてあります。自由記述を増やすと回答の負担が上がって回収率が落ちるためです。社名や期間を入れ替えれば、紙でもGoogleフォームでもそのまま使えます。
発生の頻度と類型(Q1〜Q4)
- 過去1年間に、顧客や取引先から著しい迷惑行為(暴言・威圧・過剰な要求など)を受けたことがありますか。
選択肢:ない / 年に1〜2回 / 月に1回程度 / 週に1回以上 - (受けたことがある方)どのような行為でしたか。当てはまるものをすべて選んでください。
選択肢:大声・暴言 / 長時間の拘束・居座り / 同じ要求の執拗な繰り返し / 土下座など謝罪方法の強要 / SNS・口コミサイトでの誹謗中傷 / 身体的な攻撃・威嚇 / 性的な言動 / その他 - その行為は主にどのチャネルで発生しましたか。当てはまるものをすべて選んでください。
選択肢:対面(店頭・訪問先) / 電話 / メール・問い合わせフォーム / SNS・口コミサイト / その他 - 最も負担が大きかった事案で、対応に要した時間はどのくらいでしたか。
選択肢:30分未満 / 30分〜1時間 / 1時間〜半日 / 半日以上・複数日にわたった
報告の実態(Q5〜Q7)
- 同僚が顧客等から著しい迷惑行為を受けている場面を見たことがありますか。
選択肢:ある / ない - (受けたことがある方)その事案を上司または会社に報告しましたか。
選択肢:毎回報告した / 報告したことも、しなかったこともある / 報告しなかった - (報告しなかったことがある方)報告しなかった理由に近いものをすべて選んでください。
選択肢:どこに報告すればよいか分からなかった / 報告しても何も変わらないと思った / 自分の対応が悪かったと思われそうだった / 大ごとにしたくなかった / 報告する時間がなかった / その他
影響と体制の認知、欲しい支援(Q8〜Q11)
- 対応の後、心身にどのような影響がありましたか。当てはまるものをすべて選んでください。
選択肢:出勤するのが憂鬱になった / 眠れない・食欲がないなど体調に出た / 退職を考えた / 特に影響はなかった - 会社にカスハラ対応のルールや相談先があることを知っていますか。
選択肢:内容まで知っている / あることは知っているが内容は知らない / 知らない・無いと思う - 現在の会社の対応体制について、どう感じますか。
選択肢:十分だと思う / どちらともいえない / 不十分だと思う - 会社にあってほしい支援をすべて選んでください。
選択肢:対応を上司や専任者に交代できる体制 / 判断に迷わない対応マニュアル / 通話録音などの設備 / 対応後の心のケア・面談 / 対応方法の研修 / 迷惑行為への対応方針をお客様に事前告知すること / その他
自由記述(Q12)
- 具体的な事案の内容や、会社への要望があれば自由にお書きください(任意)。
記述式。個人や特定の顧客が識別できる内容は、集計時に要約して扱う旨を注記しておきます。
Q1とQ5を分けているのは、本人が受けた件数だけでは実態を過小評価しやすいためです。目撃の有無を別に取ると、「自分は受けていないが職場では起きている」という層が見えます。Q7の「報告しなかった理由」は、この調査でいちばん対策に直結する設問です。相談窓口を作っても報告が増えない会社は、たいていここに原因が出ています。
匿名性の担保が回答の質を決める
実態調査アンケートで最も多い失敗は、記名式にしてしまうことです。記名にすると「自分の対応力を評価されるのではないか」という心理が働き、実際にあった事案が回答に出てきません。特にQ7(報告しなかった理由)とQ8(心身への影響)は、匿名でなければまず本音が書かれません。次の4点を押さえます。
- 無記名にし、そのことを案内文に明記する。「匿名です」と口頭で言うだけでは信用されません。案内文に、個人を特定する集計をしない旨を文章で残します。
- 属性項目を最小限にする。部署・年齢・性別・勤続年数をすべて取ると、少人数の会社では組み合わせで個人が特定できてしまいます。従業員50名以下なら属性は取らず全社一本で集計する、100名規模でも「顧客対応の有無」程度にとどめるのが安全です。
- 集計単位を全社にする。「営業部で回答したのは3人だけ」という状況で部署別集計を公表すると、誰が何と答えたか推測できてしまいます。部署別に見たい場合も、回答者が10名に満たない単位は集計から外すか他とまとめます。
- 回収方法でも匿名を守る。紙なら回収箱に投函する方式にし、上司の手渡し回収は避けます。Webフォームならログイン不要・メールアドレス収集オフの設定にします(Googleフォームは既定でオフですが、組織アカウントでは自動収集がオンになっていることがあるため設定画面で確認します)。
実施の段取り|案内文例と回答期間
段取りはシンプルで構いません。案内を出し、1〜2週間の回答期間を置き、締め切ったら集計する。それだけです。案内文は次の骨子で出します。
当社では、2026年10月1日に施行されるカスタマーハラスメント対策の義務化に先立ち、社内の実態を把握するためのアンケートを実施します。回答は無記名で、個人が特定される形での集計・公表は行いません。結果は対策の優先順位を決める目的にのみ使用し、集計結果の概要は後日全社に共有します。
回答期間:〇月〇日(〇)〜〇月〇日(〇)の2週間
所要時間:5分程度
なお、いま対応に困っている事案がある方は、このアンケートとは別に「相談窓口(担当:〇〇)」までご連絡ください。ご協力をお願いいたします。
回答期間は1〜2週間が目安です。1週間未満だとシフト勤務や休暇中の従業員が漏れ、1か月に延ばしても回答は最初の数日と締切前に集中するだけで増えません。期間の中日に一度、リマインドを出します。
回収したら、やることは3つです。
- 単純集計を作る。設問ごとに選択肢の件数と割合を出すだけで足ります。クロス集計や統計処理は不要です。Q2(類型)とQ3(チャネル)の上位、Q6の報告率、Q7の理由の分布が、このあとの意思決定に使う中心データになります。
- 経営層に報告する。「月1回以上受けている従業員が〇%いる」「報告されているのは〇割にすぎない」という2つの数字だけでも、対策に予算と時間を割く判断材料として十分に機能します。
- 回答者に結果の概要を共有する。案内文で約束したとおり、集計結果と「これから何をするか」を全社に伝えます。ここを省くと、翌年以降の調査で回答してもらえなくなります。
結果の使い方|集計から対策への落とし込み
集計結果は、そのまま10の措置の設計図になります。使い方は次の3段階です。
| 結果の見どころ | 対策への反映先 |
|---|---|
| Q2で最も多かった類型・Q3で最も多かったチャネル | 対応手順書の場面分けをここから書き始める。電話が多いなら電話の切り上げ方と録音、対面が多いなら複数名対応と退去要請の手順を先に整える |
| Q6の報告率・Q7の報告しなかった理由 | 「どこに報告すればよいか分からない」が多ければ窓口の周知、「報告しても変わらない」が多ければ報告後に会社が何をするかの明文化を優先する |
| Q11で要望の多かった支援 | 就業規則・社内規程やマニュアルの改定項目に反映し、次回の見直し時期を決める |
そして、翌年も同じ設問で再調査します。設問を変えないことが肝心です。同じものさしで測り続けるから、発生頻度や報告率の変化が対策の効果として読めるようになります。義務化対応を「書類を作って終わり」にしないための、いちばん簡単な仕組みが年1回の定点調査です。
よくある失敗3つ
- 低回答率のまま締め切る。回答率が5割を下回ると「被害を受けていない人ほど答えていない」のか「諦めている人ほど答えていない」のか判別できず、数字が使えません。中日のリマインドで動かなければ、期間を1週間延ばして朝礼などで口頭でも案内します。
- 結果を共有しない。回答したのに何も返ってこない経験をした従業員は、次回から回答しません。集計の概要と「まず何から着手するか」を、締切から1か月以内に全社へ返します。
- 一度きりで終わる。1回分のデータでは現状は分かっても変化が分かりません。年1回、同じ設問で繰り返す前提でスケジュールに組み込んでおきます。
よくある質問
カスハラの実態調査アンケートは法律上の義務ですか?
厚生労働省の指針が定める10の措置に、実態調査そのものは列挙されていません。ただし、対処の内容の周知(措置②)や再発防止(措置⑦)をどこから整えるかは社内の実態が分からないと決められず、厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでも取組の出発点に実態把握が置かれています。義務の項目ではなく、10の措置を自社に合った順番で講じるための前提と考えるのが正確です。
アンケートは記名式と匿名式のどちらがよいですか?
実態把握が目的なら匿名式にします。記名式では「自分の対応が悪かったと思われるのではないか」という心理が働き、実際にあった事案が回答に出てきません。個別の事案対応(事実確認)は相談窓口の役割であり、アンケートとは分けて設計します。
実態調査はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
年1回を目安に、同じ設問で繰り返すのが実務的です。同じ設問で取り続けると、対策を講じた後に発生頻度や報告率がどう変わったかを比較でき、施策の効果測定にそのまま使えます。一度きりの調査では、その後に増えたのか減ったのかが分かりません。
自社の就業規則ファイルを置くと、カスハラ条文の有無など書いてあることと書いてないことが1枚になります。就業規則のファイルを置く(無料)
- 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」(10の措置の内容)(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf - 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(実態把握の位置づけ・取組の進め方)(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf - e-Gov法令検索「労働施策総合推進法」(改正後33条・措置義務の根拠条文)
https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
10の措置の内容・条文根拠は上記の一次情報にもとづいています。設問例12問と案内文例は、これらの内容を自社の実態把握に落とし込む際の実務上の整理であり、厚生労働省が公表した公式の調査票ではありません。
※本ページでは制度の一般的な仕組みをまとめています。調査の設計や属性項目の扱いは、業種・組織体制・従業員数によって調整が必要です。最新の正確な情報は、厚生労働省・都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))にご確認ください。個別の相談対応や書類作成の代行(社会保険労務士業務)は行っていません。