最終確認日:2026年7月9日(カスハラ対策義務化の全体像で確認済みの一次情報にもとづく)
「相談窓口を設けてください」と言われても、人事の専任担当者がいない会社では、そもそも誰が窓口をやるのかというところで止まってしまいます。窓口は必ずしも専任である必要はありません。ここでは、既存の担当者が兼務する形で最小限の体制を作る方法と、あわせて求められるプライバシー保護・不利益取扱い禁止の実装を整理します。
窓口に求められているのは「専任」ではなく「機能」
カスハラ対策義務化の全体像で整理したとおり、厚生労働省の指針は次の2つを措置として求めています。
- ③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
- ④ 窓口の担当者が適切に対応できるようにする
ここで求められているのは、相談を受け付ける窓口が「決まっていること」と、担当者が「一次対応できること」です。専任の担当部署を新設しなければならないわけではなく、既存の業務と兼務する形で置いても、この2つの要件は満たせます。
兼務窓口の3つのパターン
従業員規模によって、現実的な体制は変わります。自社の規模に近いパターンを起点に考えると組み立てやすくなります。
| 会社の規模 | 窓口の置き方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 数名〜10名程度 | 経営者本人、または人事・総務を兼ねる担当者が窓口を兼務 | 経営者自身が相談内容の関係者になり得る場合に備え、外部の相談先も一つ案内できるようにしておく |
| 10〜50名程度 | 総務・労務担当者が窓口を兼務し、店舗・拠点がある場合は各拠点の責任者を一次受付に置く | 一次受付から本社担当者への引き継ぎルートを一本化しておく |
| 複数拠点・チェーン展開 | 拠点責任者が一次受付、本社の担当者が二次窓口として集約 | 拠点責任者ごとに対応がばらつかないよう、判断基準を対応手順書に統一しておく |
いずれのパターンでも、窓口の担当者名または連絡先を、入社時の説明・休憩室の掲示・社内グループウェアのいずれかで従業員に周知しておくことが前提になります。窓口を決めただけで周知していない状態は、措置③を満たしたことにはなりません。
担当者が「適切に対応できる」ために最低限そろえるもの
措置④が求める「担当者が適切に対応できるようにする」を、専門部署のない会社で最小限実装するなら、次の3点があれば動き出せます。
- 相談を受けたときに何を聞き取るかの簡単なメモ様式(いつ・誰から・何を言われたか・誰が対応したか)
- 自分で判断がつかない場合にエスカレーションする先(経営者、または顧問社労士・外部相談窓口)をあらかじめ決めておく
- 対応に迷ったときにその場で確認できる相談先を一つ持っておく(無料のハラスメント対応AIなど、社内に専門知識がなくても一次的な整理に使えるものでよい)
プライバシー保護の最小実装(措置⑨)
相談窓口を作ると同時に、指針は相談者などのプライバシーを保護する措置を求めています。専任部署がない会社でも、次の3つを文書化し周知すれば最小限の実装になります。
- 相談内容を共有してよい範囲をあらかじめ決めておく(例:窓口担当者と経営者のみ。それ以外には相談者の同意なく伝えない)
- 相談記録は紙であれば鍵のかかる場所に、データであればアクセス権限を限定したフォルダやアカウントに保管する
- 相談を受けたこと自体を、関係者以外の従業員に話さないことを窓口担当者に周知する
特に少人数の会社では、担当者同士が近い距離で働いているため、悪気なく相談内容が漏れてしまうケースが起きやすくなります。共有範囲を最初に決めておくことが、事後のトラブルを防ぐ最も簡単な方法です。
不利益取扱い禁止の明文化(措置⑩)
相談したことや事実確認に協力したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないことは、法律の本体(改正後の労働施策総合推進法33条2項)にも直接定められています。窓口を作る際は、この禁止を次の形で明文化しておきます。
明文化した後は、実際の運用でも、相談後の人事評価やシフトの組み方に不自然な変化が生じていないかを、窓口担当者以外の目でも確認できる体制にしておくと、規定が形だけにならずにすみます。
最小構成チェックリスト
- 窓口の担当者(または兼務者)を決めている
- 担当者・連絡先を全従業員に周知している
- 相談メモの様式を用意している
- 自分で判断できない場合のエスカレーション先を決めている
- 相談内容の共有範囲を限定し、保管方法を決めている
- 不利益取扱い禁止を文書に明記し、周知している
よくある質問
従業員数人の会社でも相談窓口は必要ですか?
必要です。措置義務は企業規模による猶予がなく、相談窓口の設置(措置③④)はすべての事業主が対象です。専任の担当者を置けない場合は、既存の担当者が兼務する形で体制を作ることになります。
経営者自身が相談窓口を兼ねてもよいですか?
従業員数名程度の会社であれば、経営者自身が窓口を兼ねる運用も可能です。ただし相談内容によっては経営者自身が当事者や関係者になる場合があるため、外部の相談先も一つ用意しておくと、相談者が話しにくいケースに対応できます。
相談窓口のプライバシー保護は何をすればよいですか?
相談内容を共有する範囲をあらかじめ限定し、相談者の同意なく関係者以外に伝えないこと、相談記録をアクセス制限のある形で保管することを、基本方針や対応手順書に明記して周知することが最小限の実装です。
- 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」(措置③④⑨⑩の内容)(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf - 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html - e-Gov法令検索「労働施策総合推進法」(改正後33条2項・不利益取扱い禁止の根拠条文)
https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
措置③④⑨⑩の内容・条文根拠は上記の一次情報にもとづいています。兼務窓口のパターン分けや最小実装の整理は、これらの内容を自社の体制に落とし込む際の実務上の整理であり、厚生労働省が公表した公式ひな形ではありません。
※このページは、制度の一般的な仕組みを解説する情報提供を目的としています。窓口の具体的な体制は、業種・従業員数・組織構成によって調整が必要です。最新の正確な情報は、厚生労働省・都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))にご確認ください。社会保険労務士による個別相談・書類の作成代行ではありません。