最終確認日:2026年8月12日(カスハラ対策義務化の全体像で確認済みの一次情報にもとづく)
カスハラ研修を外部業者に頼むと、1回あたり数万円から数十万円かかります。従業員数5〜100名の会社なら、その支出は要りません。研修で話すべき中身は「自社の方針・自社の対応フロー・自社の相談窓口」であって、外部の講師より社内の担当者のほうが正確に話せるからです。このページでは、総務・人事の担当者が資料を作り、30分の研修を1回実施し、行政調査に耐える記録を残すところまでの手順をまとめます。
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厚生労働省指針が求める措置は10個で、就業規則の条文で足りるのは一部です。自社に足りない措置を確認する(無料・登録不要)。
カスハラ対策の義務化(2026年10月1日施行)まで あと少しです。
研修は10の措置のどこに位置づくか
カスハラ対策義務化の全体像で整理したとおり、2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法にもとづき、厚生労働省の指針は事業主に10の措置を求めます。このうち研修が直接関わるのは次の2つです。
- ① カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する方針を明確化して、労働者に周知・啓発する
- ② カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
つまり研修は、10の措置に別枠で追加された11個目の義務ではなく、方針と対処内容を「周知・啓発」する手段の一つです。指針は周知・啓発の方法として研修の実施を例示しており、文書を配って掲示するだけよりも、研修の形で説明して質疑を受けたほうが、周知として実質を伴います。逆に言えば、話す中身は既に作ってあるはずの基本方針と対応手順書そのものであり、研修のために新しい理論を勉強する必要はありません。
基本方針と対応手順書がまだ無い場合は、先に対応マニュアル・基本方針の作り方で文書を作ってから研修に進んでください。順番が逆になると、研修で「当社の方針は検討中です」と言うことになり、周知になりません。
30分でできる研修の最小構成
初回の研修は30分で組みます。60分・90分の研修は内容を持て余しますし、店舗や現場を止められる時間には限りがあります。次の進行表は、朝礼後や昼休憩前の30分を想定した構成です。
| 時間 | 進行 | 話す内容の骨子 |
|---|---|---|
| 0〜3分 | 開会・目的の説明 | 2026年10月1日からカスハラ対策が会社の義務になったこと。会社として従業員を守る体制を作ったので、その中身を全員で確認するのが今日の目的だと伝える |
| 3〜10分 | カスハラの定義と線引き | 3要素(顧客等の言動/社会通念上許容される範囲を超える/就業環境が害される)を資料で示し、正当なクレームとの違いを自社の業務に近い例で2つ説明する |
| 10〜18分 | 自社の対応フロー | 初期対応で何を言うか、どの時点で上司に代わるか、一人で長時間対応させないルール。対応手順書の該当ページを開きながら、電話と対面それぞれの流れを追う |
| 18〜23分 | 相談窓口と記録 | 相談窓口の場所と担当者名、相談してもプライバシーは守られ不利益な取扱いはないこと、対応後に記録を残す様式の書き方 |
| 23〜28分 | 質疑応答 | 現場から実際にあった事例を拾う。その場で判断に迷う質問は持ち帰り、後日回答を全員に共有すると伝える |
| 28〜30分 | 受講確認 | 受講者名簿に署名(またはチェック)をもらい、資料は各自手元に残すよう案内して閉会 |
研修資料に載せる5項目
資料はスライドでも配布プリントでも構いませんが、次の5項目が揃っていれば周知の中身として過不足がありません。既存の社内文書からの転記が中心なので、資料作成の実作業は半日で終わります。
| 項目 | 載せる内容 | 転記元 |
|---|---|---|
| 1. 自社の基本方針 | 会社の姿勢を示す方針文をそのまま1枚で掲載する。要約や抜粋にせず原文を載せる | 基本方針の文書 |
| 2. 対応フロー | 初期対応からエスカレーション、警察通報の目安までの流れ。図か一覧表にする | 初動対応フロー |
| 3. 線引きの基準 | 正当なクレームとカスハラを分ける判断基準と、自社業務に近い具体例 | クレームとの線引き基準 |
| 4. 相談窓口 | 窓口の担当者名・連絡方法・受付時間。プライバシー保護と不利益取扱い禁止の一文を添える | 相談窓口の設置内容 |
| 5. 記録の取り方 | 対応後に記録する様式(日時・相手の言動・対応者・状況)と提出先 | 対応手順書の記録様式 |
資料の表紙か奥付に「版数と作成日」を入れておいてください(例:第1.0版 2026年8月作成)。あとで方針や窓口が変わって資料を改訂したとき、どの版で誰に周知したかを追える形にするためです。この一手間が、後述する実施記録の価値を決めます。
そのまま使える説明文例
研修の冒頭と締めで話す言葉は、その場で考えると曖昧になりがちです。次の骨子文を自社の言葉に直して台本に貼り付けてください。
実施記録の残し方
研修は実施しただけでは証明できません。都道府県労働局から報告を求められた場合(報告徴収)に「いつ・誰に・何を周知したか」を示せる形で、次の3点を1枚の記録票にまとめて保管します。
- 実施日と所要時間:開催回ごとに記録する。回を分けた場合は全回分を残す
- 参加者名簿:受講者の署名またはチェックが入ったもの。欠席者は氏名と補講予定日を書き、補講実施後に消し込む
- 使用資料の版数:「カスハラ対応研修資料 第1.0版(2026年8月作成)」のように、どの版で説明したかを特定できる形で書き、資料の現物を1部添付する
保管先は、就業規則や36協定と同じ労務関係のファイルにまとめておくと、調査時に探さずに済みます。電子で残す場合も、名簿の署名部分はスキャンして一緒に保存してください。
よくある失敗3つ
研修を実施した会社でも、次の3パターンで周知の実質が抜け落ちる例が目立ちます。いずれも実施前に決めておけば防げます。
- 一度きりで終わる:2026年10月1日の施行前に1回実施して満足すると、その後の入社者が全員未受講になります。年1回の全体実施と、入社時オリエンテーションへの組み込みをセットで最初から予定に入れてください。
- パート・アルバイトを対象外にする:措置義務は雇用形態を問わず全労働者が対象です。実際に電話や店頭で最初にカスハラを受けるのはパート・アルバイトであることが多く、正社員だけに周知しても現場は守れません。シフトの都合で集まれないなら、同じ資料で回を分けます。
- 記録を残さない:実施したのに名簿も資料の版数も残っていないと、調査時に周知の事実を示せません。前の章の記録票3点(実施日・参加者・資料版数)を、研修当日のうちに作り終えてください。後日まとめて作ろうとすると、欠席者の記憶が消えます。
就業規則・他の文書との関係
研修で説明する対処の内容は、就業規則や社内規程の記載と食い違わないように揃えておく必要があります。研修で「上司に代わる」と教えたのに、規程には別の手順が書いてある状態は、調査時にも現場でも混乱のもとです。規程側の書き方は就業規則・社内規程へのカスハラ対応の書き方で規定例つきで整理しているので、研修資料を作る前に一度突き合わせてください。
よくある質問
カスハラ研修は外部の講師に頼まないと義務を満たせませんか?
外部講師は必須ではありません。指針が求めているのは方針の明確化と周知・啓発であり、その手段としての研修は社内の担当者が実施して差し支えありません。自社の方針・フロー・窓口を説明できるのは社内の人間なので、資料と進行台本があれば総務・人事の担当者が講師を務める形で足ります。
パート・アルバイトも研修の対象に含める必要がありますか?
含める必要があります。措置義務は雇用形態を問わず全労働者が対象で、実際に顧客と最初に接するのはパート・アルバイトであることが多いためです。全員が集まれない場合は、同じ資料で回を分けて実施し、それぞれの実施記録を残します。
カスハラ研修は年に何回実施すればよいですか?
回数の法定基準はありませんが、一度きりだと入社者が未受講のまま残ります。年1回の全体実施に加えて入社時オリエンテーションに組み込むと、受講漏れが構造的に起きなくなります。実施のたびに実施日・参加者・資料の版数を記録します。
自社の就業規則ファイルを置くと、カスハラ条文の有無など書いてあることと書いてないことが1枚になります。就業規則のファイルを置く(無料)
- 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」(措置①②の内容)(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf - 厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html - e-Gov法令検索「労働施策総合推進法」(改正後33条・措置義務の根拠条文)
https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
措置①②の内容・条文根拠は上記の一次情報にもとづいています。進行台本・資料構成・記録票の項目は、これらの内容を自社で実施する際の実務上の整理であり、厚生労働省が公表した公式の研修プログラムではありません。
※本ページでは制度の一般的な仕組みをまとめています。研修の具体的な内容は、業種・組織体制・想定するリスクによって調整が必要です。最新の正確な情報は、厚生労働省・都道府県労働局(雇用環境・均等部(室))にご確認ください。個別の相談対応や書類作成の代行(社会保険労務士業務)は行っていません。