「有給の管理表が回らなくなってきた」「そろそろシステムに移るタイミングなのか」。エクセルで労務管理をしている会社の多くが、一度はこの迷いにぶつかります。検索して出てくる記事の多くはシステム会社が書いたもので、読み終わる頃には「エクセルは危険、今すぐ移行を」という話になりがちです。この記事は少し立場が違います。無料のエクセルテンプレを配っている運営者として、まずは「エクセルでどこまでいけるか」を正直に示し、そのうえで限界が来たときの移行先を、種類ごとの得意・不得意まで含めて整理します。
エクセルでの労務管理は法律違反ではない
最初に押さえておきたいのは、労務管理をエクセルで行うこと自体は法律上まったく問題ない、という点です。たとえば有給休暇について会社に課されている義務は、次のとおりです。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 年5日の確実な取得 | 年10日以上の有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に、年5日は確実に取得させる(2019年4月から・労働基準法39条7項) |
| 管理簿の作成 | 時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにした「年次有給休暇管理簿」を作成する(労働基準法施行規則24条の7) |
| 管理簿の保存 | 有給休暇を与えた期間中および期間満了後5年間(経過措置により当分の間は3年間)保存する |
| 違反時の罰則 | 年5日を取得させなかった場合、30万円以下の罰金(労働基準法120条)。対象労働者1人につき1罪として扱われる |
このうち管理簿について、厚生労働省の解説資料は「必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上で、システム上で管理することも差し支えありません」と明記しています。つまり、必要な項目がそろっていて、求められたら出せる状態になっていれば、エクセルの管理簿は立派な適法運用です。
それでも限界が来る|7つのサイン
一方で、エクセル管理には構造的な弱点があります。ファイルそのものは壊れなくても、運用が人の注意力に依存しているため、会社が成長するにつれて破綻しやすくなります。次のサインのうち2つ以上に心当たりがあれば、限界が近いと考えてよいと思います。
- 従業員ごとに入社日(基準日)がバラバラで、付与日数の計算を毎回手作業でやっている
- 年5日の取得期限が近い人を、ファイルを開いて目で探している
- 入退社のたびに行の追加・削除やシートの作り直しが発生し、数式が壊れることがある
- 数式を作った担当者しか直せず、その人が休むと誰も触れない
- 法改正があるたびに、何をどう直せばよいか自分で調べて数式を修正している
- 勤怠・有給・給与計算で、同じ情報を2回以上入力している
- 従業員から「有給はあと何日ありますか」と聞かれて、その場で即答できない
特に1と2は、年5日取得義務の履行に直結します。取得期限の見落としは、悪意がなくてもそのまま法違反(1人につき1罪)につながるため、ここが手作業になっている状態が続くのは危険信号です。
まだエクセルで大丈夫な会社の条件
逆に、次の条件に当てはまる会社は、急いでシステムに移る必要はないというのが率直なところです。
- 従業員がおおむね10人未満で、入退社が年に数回程度
- 基準日を統一している(または、これから統一できる)
- 有給以外の領域(勤怠の記録・給与計算)は、すでに別の仕組みで回っている
- 管理表の構造が単純で、担当者以外でも開けば意味が分かる
この状態なら、必要なのは高機能なシステムではなく「壊れにくく作ってあるテンプレート」です。当サイトでは、氏名・入社日・週の労働日数を入れると基準日と付与日数が自動で入り、年5日義務の残り日数を自動判定する有給管理簿のエクセルテンプレートを無料で配布しています。36協定のセルフチェックリスト、入社手続きの漏れ防止リストとの3点セットです。
限界が来たら|移行先は2系統に分かれる
限界のサインが出はじめたとき、移行先の選択肢は実は1種類ではありません。エクセル労務管理の負担は「記録の手間」と「判断の手間」の2つでできていて、それぞれ解決するツールが違います。
記録の自動化が課題なら|勤怠管理システム
打刻・残業集計・有給の残日数管理・申請承認といった「記録と集計」を自動化するのが勤怠管理システムです。市場には多くの製品があり、価格帯の目安として、たとえばKING OF TIMEの公式サイトによると、月額1人あたり300円・初期費用0円・最低利用人数なしとされています(2026年7月9日確認)。従業員10人なら月3,000円程度からの製品がある、というのがひとつの目安です。製品ごとに機能や条件は異なるので、導入時は各社の公式サイトで最新の料金をご確認ください。
限界サインの2(期限が近い人を目で探す)・3(入退社で壊れる)・6(二重入力)が主な悩みなら、この系統が合っています。
判断・相談の手間が課題なら|会社を覚える労務AI
一方で、システムを入れても残る手間があります。「週3日のパートさんの付与日数は何日か」「うちの締め日だと基準日はいつになるのか」「法改正で管理簿の様式は変わるのか」といった、調べて判断する部分です。ここを支援するのが、当サイトと同じ運営者が開発している労務AI「番頭」です。所定労働時間・休日・雇用形態といった自社の前提を一度覚えさせると、以後はその前提をふまえて労務の質問に答え、規程づくりや法改正の気づきを支援します。
正直に書くと、番頭にできないことも明確にあります。打刻や勤怠集計はできません。給与計算もできません。管理簿を自動作成する機能でもありません。記録の自動化が課題なら、前述の勤怠管理システムのほうが適しています。番頭が向いているのは、記録はエクセルやシステムで回っているが、判断や相談のたびに調べ直す時間がつらい、という状態です。限界サインでいえば、1(付与日数の手計算)・5(法改正のたびに調べて直す)・7(質問に即答できない)が主な悩みなら、この系統が合っています。なお4(属人化)は、手作りの数式に依存する状態をやめること自体で、どちらの系統でも軽くなります。
3つの選択肢の正直な比較
| 選択肢 | 費用の目安 | 得意なこと | 不得意なこと |
|---|---|---|---|
| エクセル+無料テンプレ | 0円 | 少人数・低頻度の管理を費用ゼロで適法に回す | 期限の自動監視・人数増への追従・属人化の解消 |
| 勤怠管理システム | 月額1人300円程度から(製品により異なる) | 打刻・集計・残日数・申請承認など記録の自動化 | 「うちの場合どうなるか」という判断・相談への回答 |
| 労務AI「番頭」 | 現在は無料モニター期間 | 自社の前提を覚えた上での労務相談・規程づくり・法改正の気づき | 打刻・勤怠集計・給与計算(機能がありません) |
この3つは競合ではなく、段階と役割の違いです。少人数のうちはテンプレで整え、記録がつらくなったら勤怠管理システムを、判断がつらくなったら番頭を、両方つらければ併用を検討する、というのがこの記事の結論です。
よくある質問
有給休暇の管理をエクセルで行うのは法律上問題ありませんか?
問題ありません。年次有給休暇管理簿は、時季・日数・基準日を労働者ごとに明らかにしていれば、必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上でシステム上(エクセル等のデータ)で管理して差し支えないと厚生労働省の資料に明記されています。
年次有給休暇管理簿の保存期間は何年ですか?
有給休暇を与えた期間中および当該期間の満了後5年間です。ただし経過措置として、当分の間は3年間とされています(労働基準法施行規則24条の7、令和2年の改正労働基準法等に関するQ&A)。
従業員が何人になったらシステムに移るのがよいですか?
人数だけで決まる一律の正解はありません。基準日がバラバラで付与日数の計算を毎回手作業でやっている、年5日の取得期限が近い人を目視で探している、担当者しかファイルを直せない、といったサインが複数出ているかどうかで判断するのが実務的です。
労務AI「番頭」で勤怠の打刻や給与計算はできますか?
できません。番頭は自社の前提(所定労働時間・休日・雇用形態など)を覚えた上で労務の質問に答え、規程づくりや法改正の気づきを支援するツールで、打刻・勤怠集計・給与計算の機能はありません。記録の自動化が課題の場合は勤怠管理システムが適しています。
- 厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(PDF):年5日義務・管理簿の記載事項・システム管理の可否・罰則
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf - 厚生労働省労働基準局「改正労働基準法等に関するQ&A」(令和2年4月・PDF):年次有給休暇管理簿の保存期間5年(当分の間3年)への延長(Q2-2)
https://www.mhlw.go.jp/content/000617980.pdf - e-Gov法令検索「労働基準法」(39条・120条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 - KING OF TIME「ご利用料金」(株式会社ヒューマンテクノロジーズ公式サイト):月額1人300円・初期費用0円・最低利用人数なし
https://www.kingoftime.jp/costlist/cost/
本文中の義務・保存期間・罰則の記述は上記の法令条文および厚生労働省公表資料に、他社製品の料金は当該社の公式サイトの記載(確認日時点)にもとづいています。料金・仕様は変更されることがあります。
※本記事は、制度をわかりやすく解説することを目的とした一般的な情報提供です。個別の事案への当てはめは、事業の内容や事実関係によって変わることがあります。最新の正確な情報は、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署にご確認ください。社会保険労務士による個別相談・書類の作成代行ではありません。