最終確認日:2026年7月25日(出典欄の一次情報にもとづく)
飲食店の労務トラブルの多くは、就業規則のような大きな書類よりも、日々の小さな運用から生まれます。シフトの当日カット、22時をまたぐ勤務の割増、採用時に渡していなかった労働条件通知書。どれも単価は小さく見えますが、アルバイトの人数と日数を掛けると、未払い賃金として無視できない金額になります。ここでは、店を回しながら押さえられる順番で論点を整理します。
採用時:労働条件通知書はアルバイトにも必要
労働条件の書面明示は、正社員だけでなくアルバイト・パートを含むすべての労働者に必要です。2024年4月からは、就業場所・業務の「変更の範囲」の明示も追加されており、複数店舗を持つ場合は「会社の定める店舗」のように将来の異動可能性まで書いておく必要があります。本人が希望すれば、メールやSNSのメッセージなど出力可能な電子的方法での交付も認められます。書き方と確認ポイントは労働条件通知書ガイドで整理しています。
あわせて、短時間のアルバイトにも、要件を満たせば有給休暇が比例付与されます。週1日勤務でも、勤続6か月・全労働日の8割出勤で付与対象です。付与日数は有給休暇の付与日数計算ツールで確認できます。
シフト:確定後のカットは休業手当の問題になる
「暇だから今日は上がっていいよ」という当日カットは、飲食店でもっとも起きやすい労務リスクです。使用者の責に帰すべき事由で労働者を休業させた場合、平均賃金の6割以上の休業手当が必要になります(労働基準法26条)。確定前のシフト希望の調整は問題になりませんが、確定したシフトを店都合で削る運用は休業にあたりえます。
| 場面 | 扱いの整理 |
|---|---|
| シフト確定前に希望日数を調整する | 労働日がまだ確定していないため、休業手当の問題は生じにくい |
| 確定したシフトを店都合で当日カットする | 使用者の責に帰すべき休業として、平均賃金の6割以上の休業手当が必要になりうる |
| 「シフトに入れるとは限らない」とだけ伝えて採用する | 最低限の労働日数・時間の目安を示さない募集・契約は、トラブルと行政指導の火種になる |
シフト表や勤怠、有給の管理をエクセルで行っている店舗も多いはずです。エクセル管理そのものは違法ではありませんが、店舗数やスタッフ数が増えると限界が来る場面もあります。まだエクセルでいける条件と移行の目安は労務管理はいつまでエクセルで大丈夫?のガイドで整理しています。
深夜営業:22時からの割増と年少者の禁止
22時から翌5時までの労働には、25%以上の深夜割増賃金が必要です。時給1,200円のスタッフが22時以降に働けば、その時間帯は1,500円以上になります。さらに、18歳未満の年少者は原則としてこの時間帯に働かせること自体が禁止されています(労働基準法61条)。「高校生は22時まで」という運用は、正確には「18歳未満は22時まで」です。深夜帯を含む未払いが積み上がっていないかは、残業代計算機で概算できます。
学生アルバイトと社会保険・扶養の壁
週20時間以上・月額賃金8.8万円以上などの要件による短時間労働者の社会保険加入では、昼間学生は対象から除かれています。ただし、週の労働時間と月の労働日数が正社員の4分の3以上になるような働き方をすれば、学生でも加入対象になります。また、学生本人にとっては親の扶養(税・社会保険)のラインも働き方に影響します。制度の全体像は週20時間の壁の解説と106万・130万の壁ガイドで、個別の見込みは社会保険シミュレーターで確認できます。
留学生スタッフ:週28時間の上限
在留資格が「留学」のスタッフは、資格外活動許可を得たうえで、原則週28時間以内(在籍する教育機関の長期休業期間中は1日8時間以内)しか働けません。上限を超えて働かせると、本人の在留資格だけでなく、店側も不法就労助長の問題を問われえます。複数店舗・掛け持ちバイトの場合は他店分も合算されるため、採用時に掛け持ちの有無を確認し、シフト管理に上限を組み込んでおく必要があります。
客からのハラスメント:2026年10月から対応が義務に
飲食店は顧客と接する時間が長く、カスタマーハラスメントの矢面に立ちやすい業種です。2026年10月からは、顧客等からの著しい迷惑行為から従業員を守る体制の整備が、企業規模を問わず義務化されます。「どこまでが正当なクレームで、どこからがカスハラか」の線引きと現場の初動を決めておくことが出発点になります。判断基準はカスハラとクレームの線引きガイド、義務化の全体像はカスハラ対策義務化ガイドで整理しています。
よくある質問
シフトを減らしたら休業手当は必要ですか?
使用者の責に帰すべき事由で労働者を休業させた場合、平均賃金の6割以上の休業手当が必要です(労働基準法26条)。確定したシフトを店都合で当日カットする運用はこの休業にあたりえます。シフトの確定ルールを募集時の条件と運用の両方で明確にしておくことが予防になります。
高校生のアルバイトを22時以降まで働かせてもよいですか?
18歳未満の年少者は、原則として22時から翌5時までの深夜業が禁止されています(労働基準法61条)。高校生かどうかではなく年齢で判断されます。18歳以上でも、22時以降は25%以上の深夜割増賃金が必要です。
労働条件通知書はLINEやメールで送ってもよいですか?
労働者本人が希望した場合には、出力して書面を作成できる方法(メール・SNSのメッセージ等)での明示が認められています。本人の希望なく電子交付のみで済ませることはできないため、採用時に希望を確認し、記録を残す運用が実務的です。
- e-Gov法令検索「労働基準法」(労働条件の明示・休業手当・深夜業・年少者の根拠条文)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049 - 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」(短時間労働者の加入要件・学生の扱い)
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/ - 出入国在留管理庁「資格外活動許可申請」(留学生の週28時間・長期休業中の特例)
https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/16-8.html - 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf
※本記事は一般的な情報提供のための解説です。休業手当の要否やシフト運用の適法性は個別の事情によって判断が分かれます。最新の正確な情報は、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署にご確認ください。当サイトは社会保険労務士による個別相談や書類作成の代行を行うものではありません。