最終確認日:2026年7月9日(保険料率は協会けんぽ・日本年金機構の一次情報で確認)
2026年10月に賃金要件(月額8.8万円以上)が撤廃される予定であることは親記事で整理したとおりです。会社にとって気になるのは、対象者が増えたときに人件費がどのくらい増えるのか、施行までに何を準備すればよいのかという実務の話です。ここでは事業主負担の計算例と、社内アナウンスの手順を整理します。
会社が負担する保険料の内訳
従業員が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入すると、会社は保険料の半分を負担します(労使折半)。確認できた令和8年度の保険料率は次のとおりです。
| 保険料 | 料率 | 適用時期 | 会社負担分 |
|---|---|---|---|
| 健康保険料(協会けんぽ・全国平均) | 9.9% | 令和8年3月分(4月納付分)から | 4.95%(折半) |
| 介護保険料(40〜64歳が対象) | 1.62% | 令和8年3月分から | 0.81%(折半) |
| 厚生年金保険料 | 18.3% | 平成29年9月分から固定 | 9.15%(折半) |
健康保険料率は都道府県支部ごとに異なり、上記は全国平均です。実際の保険料は、月額賃金をそのまま料率にかけるのではなく、標準報酬月額という等級区分に当てはめて算定します。以下の試算は、目安をつかむための概算です。
月額賃金別・会社負担の目安
月額賃金に各保険料率をかけて折半した場合のおおよその会社負担は次のとおりです(介護保険料は40〜64歳の従業員のみ加算されます)。
| 月額賃金 | 健康保険(会社負担) | 厚生年金(会社負担) | 合計/月(40歳未満) | 合計/年(40歳未満) |
|---|---|---|---|---|
| 88,000円 | 約4,356円 | 約8,052円 | 約12,408円 | 約148,900円 |
| 100,000円 | 約4,950円 | 約9,150円 | 約14,100円 | 約169,200円 |
| 120,000円 | 約5,940円 | 約10,980円 | 約16,920円 | 約203,000円 |
40〜64歳の従業員であれば、これに介護保険料の会社負担分(月額賃金の0.81%相当)が加わります。月額賃金9万円であれば、介護保険料の会社負担は月あたり700円台が目安です。パートが10人加入すれば、年間の会社負担は単純計算でこの10倍になります。何人が新たに対象になりそうかを先に把握しておくと、人件費への影響を見積もりやすくなります。
施行までに済ませておく社内アナウンス手順
2026年10月の施行(予定)に向けて、次の順番で準備を進めると抜け漏れが少なくなります。
- 対象になりそうな従業員を洗い出す(週20時間以上30時間未満で働くパート・アルバイトのうち、これまで賃金要件で加入対象外だった人を一覧化する)
- 1人あたりの保険料負担の目安を試算する(上記の早見表を使い、本人負担・会社負担それぞれを示せるようにする)
- 対象者へ個別に説明する時期を決める(施行の数か月前が目安。手取りの変化だけでなく、将来の年金額の増加や、傷病手当金・出産手当金といった給付の対象になる点もあわせて伝える)
- 給与計算・勤怠システム側の設定を確認する(保険料控除の項目を追加する準備をしておく)
- 資格取得の手続きを準備する(施行後、要件に該当した時点で年金事務所・加入している健康保険組合への資格取得届の提出が必要になる)
- 説明した内容と対象者の反応を記録に残す(後日の問い合わせに対応しやすくするため)
特に3番目の個別説明は、直前に伝えると従業員側の不安や反発につながりやすい部分です。手取りが一時的に下がる不安には、収入を増やす働き方の選択肢や、加入によって増える保障の両方を伝えると、納得を得やすくなります。従業員から「社会保険に入りたくない」という声が出たときの説明の仕方は、別の記事でさらに詳しく整理する予定です。
社会保険加入は選択制ではない
要件を満たす従業員について、会社が加入手続きを行わない、あるいは従業員本人の希望で加入を見送るということはできません。社会保険への加入は法律上の義務であり、要件に該当した時点で手続きが必要になります。この点は、施行前の説明の際にもはっきり伝えておくとよい部分です。
よくある質問
パートが社会保険に加入すると、会社の負担はいくら増えますか?
健康保険料と厚生年金保険料を本人と折半で負担します。令和8年度の協会けんぽ全国平均は健康保険9.9%・厚生年金18.3%(いずれも折半)です。月額賃金9万円の従業員(40歳未満)なら、会社負担はおおむね月1万2千円台、年間で15万円前後が目安です(等級により前後します)。
社会保険加入の対象者には、いつ頃から説明を始めればよいですか?
2026年10月の施行(予定)を踏まえるなら、対象者の洗い出しと個別説明は施行の数か月前から始めるのが実務的です。手取りの変化と、将来の年金・給付面のメリットの両方を説明すると納得を得やすくなります。
社会保険への加入は従業員が拒否できますか?
できません。要件を満たす場合、社会保険への加入は法律上の義務で、従業員本人の希望による選択制ではありません。会社は該当者について資格取得の手続きを行う必要があります。
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」(健康保険料率・介護保険料率・適用時期)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/lp/2026hokenryou/ - 全国健康保険協会「介護保険料率について」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/about/business/insurance_rate/002/ - 日本年金機構「厚生年金保険料額表」(厚生年金保険料率18.3%)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/index.html - 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(加入要件・撤廃スケジュール)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
本文中の保険料率・計算例は、上記の一次情報にもとづく概算です。実際の保険料は標準報酬月額の等級および都道府県・組合ごとの料率によって異なります。
※本記事は、制度をわかりやすく解説することを目的とした一般的な情報提供です。保険料の正確な金額や手続きの詳細は、日本年金機構・加入する健康保険組合・年金事務所にご確認ください。個別の相談対応や書類作成の代行(社会保険労務士業務)は行っていません。