最終確認日:2026年7月29日(施行期日は厚生労働省の法律概要資料およびリーフレットで確認)
短時間労働者が社会保険に加入するかどうかの判定には、所定内賃金が月額8.8万円以上であることという条件が入っています。年収に換算して106万円の壁と呼ばれてきた条件です。この条件がなくなること自体は年金制度改正法で決まっていますが、いつなくなるのかは、まだ日付として確定していません。ここを取り違えると、シフトの設計や人件費の見通しを、動くかどうか分からない日付に合わせて組んでしまうことになります。何が確定していて何が確定していないのかを、施行期日の書き方から順に確認します。
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確定している日付と、確定していない日付
年金制度改正法の施行期日は、項目ごとに別々に定められています。厚生労働省が公表している法律案の概要(PDF)の施行期日の欄を読むと、適用拡大に関する項目だけでも扱いが分かれていることが確認できます。
| 改正の内容 | 施行期日 | 確定か |
|---|---|---|
| 保険料の負担割合の変更(労使折半を超えて事業主が負担した保険料を制度的に支援) | 令和8(2026)年10月1日 | 確定 |
| 企業規模要件の引下げ(51人以上から36人以上へ) | 令和9(2027)年10月1日 | 確定 |
| 個人事業所の非適用業種の解消 | 令和11(2029)年10月1日 | 確定 |
| 賃金要件(所定内賃金が月額8.8万円以上)の撤廃 | 公布から3年以内の政令で定める日 | 未確定 |
企業規模要件や個人事業所の項目は、法律の本則に日付そのものが書かれています。これに対して賃金要件の撤廃だけは、日付ではなく「公布から3年以内の政令で定める日」という書き方になっています。年金制度改正法の公布は2025年6月20日ですので、この枠に収まる範囲は2028年6月までです。実際にいつ施行するかは、そのなかで政令が決めることになります。
予定の根拠は、厚生労働省が令和8年1月に作成した短時間労働者への社会保険の適用拡大に関するリーフレット(PDF)です。ここには、賃金要件は令和8(2026)年10月に撤廃予定と書かれています。同じ内容は社会保険適用拡大特設サイトの注記にも「2026年10月に賃金要件を撤廃予定」として載っています。いずれも表記は予定であり、撤廃されると断定した書き方にはなっていません。
賃金要件が撤廃されると何が変わるのか
撤廃の効果そのものは明確です。短時間労働者の加入要件は5つあり、そのうち賃金の条件だけがなくなります。
| 加入要件 | 賃金要件の撤廃後 |
|---|---|
| 勤め先の従業員数(現在は51人以上) | 残ります(2027年10月から36人以上) |
| 週の所定労働時間が20時間以上 | 残ります |
| 学生でないこと | 残ります |
| 2か月を超えて雇用される見込みがあること | 残ります |
| 所定内賃金が月額8.8万円以上 | 撤廃される(時期は未確定) |
従業員数は勤め先の総人数ではなく、厚生年金保険の被保険者数で数えます。撤廃後に加入するかどうかを分けるのは、賃金ではなく週の所定労働時間になります。これまでは、月8.8万円に届かないように賃金を抑えるという調整が加入を避ける方法として成り立っていましたが、撤廃後はその方法が使えません。
月額8.8万円という金額は、もともと週20時間働いた場合に受け取る賃金の目安として置かれた数字です。厚生労働省のリーフレットには、時給が1,016円以上になれば週20時間働くだけで月額賃金が8.8万円以上になり、賃金要件を意識する必要がなくなるという説明が載っています。最低賃金が上がり続けた結果、この線引きが実態として働かなくなったことが撤廃の背景にあります。
なお、撤廃後も例外は残ります。最低賃金法には一定の場合に最低賃金の減額を許可する特例があり、この特例の対象となる短時間労働者のうち月額賃金が8.8万円未満の方は、原則として社会保険に加入しないこととされています。申出により任意で加入することは可能です。
また、所定労働時間を20時間未満に設定しておけば必ず対象外になる、と考えるのは危険です。特設サイトでは、残業時間は原則として含まないものの、常に残業が発生している場合などは週の所定労働時間の算出に含むことがあるとされています。契約書の数字だけを19時間にして、実際には毎週22時間働いているという状態は、判定の場面で問題になります。
2026年10月1日に確定しているのは保険料の負担割合の変更です
2026年10月という時期そのものが空振りというわけではありません。同じ年金制度改正法のなかで、令和8(2026)年10月1日施行と法律で定まっている項目があります。適用拡大にともなって保険料の負担割合を変更できるようにし、労使折半を超えて事業主が負担した保険料を制度的に支援する仕組みです。
厚生労働省のリーフレットでは、企業規模要件を満たさない会社が任意で加入する場合について、令和8(2026)年10月以降にこの制度を利用して任意加入をするときは、短時間労働者の保険料の一部を事業主が負担すると3年間の制度的な支援を受けられると説明されています。加入によって手取りが減ることを理由に本人が難色を示す場面で、会社側が使える選択肢が増えるという意味を持ちます。
従業員から加入したくないと言われた場合の考え方は、従業員から「社保に入りたくない」と言われたときの対応で整理しています。
2027年10月1日に企業規模要件が36人以上へ下がります
会社側にとって日付が読める改正は、こちらです。企業規模要件については、令和9(2027)年10月1日から令和17(2035)年10月1日までの間に段階的に撤廃することが法律に定められています。政令待ちではないため、予定が動く前提で構える必要がありません。
| 時期 | 対象になる従業員数(厚生年金保険の被保険者数) |
|---|---|
| 2027年9月まで | 51人以上 |
| 2027年(令和9年)10月から | 36人以上(36〜50人の企業が新たに対象) |
| 2029年(令和11年)10月から | 21人以上(21〜35人の企業が新たに対象) |
| 2032年(令和14年)10月から | 11人以上(11〜20人の企業が新たに対象) |
| 2035年(令和17年)10月から | 10人以下の企業も対象 |
従業員数が50人以下の会社は、賃金要件がいつ撤廃されても短時間労働者の加入対象にはなりません。ただし2027年10月には36人以上へ下がるため、その前年に自社の被保険者数を確認しておく必要があります。企業規模要件だけを詳しく追いたい場合は、社会保険の適用拡大(2027年10月から企業規模要件が段階撤廃)にまとめています。
個人事業所は2029年10月1日から対象が広がります
法人ではなく個人事業所として運営している場合の扱いも変わります。現在は、個人事業所のうち常時5人以上を使用する法定17業種の事業所が社会保険の適用対象です。令和11(2029)年10月1日からは、業種にかかわらず常時5人以上を使用していれば適用対象になります。これまで対象外だった農業、林業、宿泊業、飲食サービス業などが含まれます。こちらも施行期日は法律で確定しています。
ただし例外があります。厚生労働省の資料では、既存の事業所は経過措置として当分の間適用しないとされており、特設サイトでも2029年10月時点ですでに存在している事業所は当分の間対象外とすると明記されています。この拡大が実際に効くのは、2029年10月より後に新しく開業する個人事業所です。詳しくは個人事業所で働く方への社会保険の適用についてで確認できます。
なお、対象外の個人事業所であっても、従業員の半数以上の同意を得て申し出ることで、任意に社会保険へ加入させることができます。人を採用しにくい業種では、加入できることを求人条件として使う選択肢もあります。
会社が今から確認しておくこと
賃金要件の撤廃日が確定していないからといって、準備を止める理由にはなりません。対象者を数える作業と保険料の試算は、日付が決まってからでは間に合わないためです。
- 週20時間以上で働くパート・アルバイトの一覧を作り、賃金の条件を外した状態で加入判定をやり直します
- 新たに対象になる人が加入した場合の会社負担の保険料を試算し、人件費の見通しに幅を持たせて織り込みます
- 施行期日を定める政令の公布を確認する担当と時期を決めておきます
影響が大きいのは、飲食店、小売、介護のように週20時間台のシフトを何人分も組む業種です。賃金要件で対象外だった人がまとめて加入対象に変わる可能性があり、保険料は労使折半のため、対象者が増えた人数分だけ会社の負担も増えます。手続きの流れそのものは、短時間労働者の社会保険加入手続きチェックリストに整理しています。
加入を避ける目的で所定労働時間を一律に切り下げるという判断もありますが、必要な人手が確保できなくなる場面が出ます。保険料の増加を受け入れるのか、シフトを組み直すのか、募集条件として社会保険に加入できることを打ち出すのか。どれを取るかは事業所ごとの判断になります。
秋に予定が重なる点にも注意が必要です。2026年10月1日には、カスタマーハラスメント対策の義務化が全企業を対象に施行されます。こちらは施行日が確定しており、内容はカスハラ対策の義務化(2026年10月施行)の全体像にまとめています。最低賃金の改定も同じ時期に重なるため、令和8年度の目安は最低賃金 令和8年度の目安(全国加重平均1,176円)で確認できます。人件費と社内対応の見通しは、これらをまとめて見ておくほうが実態に近づきます。
よくある質問
社会保険の8.8万円の賃金要件はいつ撤廃されますか?
確定した日付はまだありません。厚生労働省はリーフレットや特設サイトで令和8(2026)年10月の撤廃を予定と公表していますが、年金制度改正法の施行期日は「公布から3年以内の政令で定める日」とされており、確認日時点でこの政令は確認できません。企業規模要件の令和9年10月1日のように、法律の本則で日付が定まっている項目とは扱いが異なります。
賃金要件が撤廃されると、パートは全員が社会保険に入りますか?
全員ではありません。週の所定労働時間が20時間以上であること、学生でないこと、2か月を超えて雇用される見込みがあること、勤め先が加入対象の規模であることという要件は残ります。撤廃後に判定の中心になるのは、賃金ではなく週の所定労働時間です。
企業規模要件が36人以上になるのはいつですか?
令和9(2027)年10月1日です。こちらは法律の本則で施行期日が定められており、賃金要件と違って政令待ちではありません。その後も2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上、2035年10月には10人以下の企業へと段階的に対象が広がります。
2026年10月に施行日が確定している変更はありますか?
あります。短時間労働者の保険料について、労使折半を超えて事業主が負担できるようにし、事業主が負担した保険料を制度的に支援する仕組みが、令和8(2026)年10月1日施行と定められています。賃金要件の撤廃とは異なり、この施行期日は確定しています。
- 厚生労働省「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案の概要」(PDF・項目ごとの施行期日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001497095.pdf - 厚生労働省 リーフレット「短時間労働者への社会保険の適用拡大」(令和8年1月作成・賃金要件の撤廃予定・時給1,016円の考え方・企業規模要件の段階的縮小・任意加入時の保険料の支援)(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001633788.pdf - 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト|社会保険加入の要件」(加入要件・週の所定労働時間の算出)
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jugyouin/taisho/ - 厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト|個人事業所で働く方への社会保険の適用について」(2029年10月からの適用対象拡大・既存事業所の経過措置・任意加入)
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/seido/kojinjigyosyo/ - 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(加入要件と従業員数の数え方)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.html
本文中の施行期日・人数・要件の記述は、上記の一次情報にもとづいています。賃金要件の撤廃時期を「予定」「未確定」と記載しているのは、法律上の施行期日が「公布から3年以内の政令で定める日」とされ、確認日時点で当該政令が確認できないためです。政令が公布された時点で本記事を更新します。
※本記事は一般的な情報提供のための解説です。個別の従業員が加入対象になるかどうかの判断や、届出書類の作成については、社会保険労務士にご確認ください。制度の詳細や今後定められる政令・省令によって取扱いが変わることがあります。最新の正確な情報は、厚生労働省・日本年金機構・年金事務所にご確認ください。当サイトは社会保険労務士による個別相談や書類作成の代行を行うものではありません。